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オニール 八菜が文化庁長官(国際芸術部門)の表彰を受けた
パリ・オペラ座バレエのプルミエールで日本国籍を持つ、オニール 八菜が国際的に活躍したアーティストとして、7月26日、文化庁長官から表彰された。
オニールは、黒いショートスカートのスーツに細身の身体を包み、赤いハイヒールを履いて文化庁長官室に姿を現した。長身だが、黒髪に黒い瞳で日本人には親しみ易い魅力的な女性である。彼女は、一昨日、京都のロームシアターで日本で初めて全幕バレエ『ドン・キホーテ』を主演。パリ・オペラ座バレエのエトワール、カール・パケットや元オペラ座のエトワール、シリル・アタナソフらと踊ったばかり。オニールは厳しいパリ・オペラ座バレエのコンクールを3回連続で勝ち抜き、プルミエール(第一舞踊手)に昇格した。そして異例の若さで国際的権威あるブノワ賞を受賞。ロシアのマリインスキー劇場、ボリショイ劇場やアメリカの舞台に立つなど、バカンス期間中も過密スケジュールをこなす中で、8歳まで過ごした故郷の日本で『ドン・キホーテ』全幕を踊り、大きな喝采を浴びた。過酷な負担がかかる全幕バレエを踊りきり、おそらく、身体には相当の疲労が重なっているのではないか、と推察する。にもかかわらずスラリとした見事な美脚を披瀝しながら、元気な姿を文化庁長官室に見せたのである。
表彰式では中岡司文化庁次長から表彰状を授与され、簡単な懇談会があり、エレベーターホールで再び報道陣に囲まれて取材を受けた。「日本の若いダンサーたちにも踊る楽しさを忘れずに頑張ってほしい」、プルミエールに昇格してからオペラ座はもちろん「ロシア、アメリカ、日本など世界各地で踊る機会があったが、とても勉強になった」「幼い頃からの夢だった、オペラ座のエトワールになるためにこれからも頑張っていきたい」などのコメントを残した。
私は、オニールがオペラ座バレエ団に正式契約して以来、取材を続けてきたが、日本人を母に持ち日本語が堪能なエトワールの誕生も、こうした国際的な舞台での活躍ぶりも含めて秒読み段階に入ったのではないか、と思う。もし、実現すれば日本のバレエファンにとって記念すべき出来事だ。今から、心してまちたい。
オニール 八菜がミリアム・ウルド=ブラーム、マチアス・エイマン、フランソワ・アリュとミルタを踊った
5月27日から始まったガルニエ宮の『ジゼル』公演で、オニール 八菜がミルタ役を初めて踊った。6月11日の公演を見た。
休憩時間が終わり、真夜中の森で展開する第2幕が開いた。ヴァイオリンの高音とハープの旋律に乗ってオニール 八菜のすらりとした高いシルエットが、霧の立ち込めた舞台に茂みの間から現れると、他の公演を見た時には感じられなかった神秘的な冷たい空気が周囲に広がった。ずらりと青白い月明かりに浮かんだ配下のウィリーたちを前に、凛とした立ち姿から発せられる威厳は女王そのもの。
許しを必死になって請うヒラリオンに投げかけられる氷つくような視線は、相手役のフランソワ・アリュをたじろがせた。宙を見据え、ヒラリオンに向けた人差し指には誰をも寄せ付けない威があった。
ひたむきで可憐そのもののジゼル役ミリアム・ウルド=ブラームが懸命に恋人を守ろうとし、それを冷ややかながら気品あふれるオニール 八菜が拒む場面は、人物と一体となった二人のダンサーが持つ演技を超えた圧倒的な存在感によって、観客は自分が夜の森に立っているかのような臨場感にとらえられた。
高くスケールの大きな跳躍はオニール 八菜のいつもながらの秀でたテクニックを観客の目に鮮やかに焼き付けた。王子らしい品と見事なテクニックのマチアス・エイマン、森の番人ヒラリオンにぴったりのエネルギーにあふれたフランソワ・アリュと男性陣にも人を得たこの舞台は、長く記憶から去ることはないだろう。
(C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé